一、今日モアリ オホケナクモ
仏法に【諸法無我】という教えがあるが、仏教の示す最も根本的な真理の一つを語るものである。
『よろずのものは我れ独りではない』という意味である。『諸法』は、万物で、『無我』は己れという単独なものの無い事を意味である。こうして生きているのは、数えきれぬ、もろもろの因縁が組合わさっているのであって、決して自己一人の力に依るものではない。何もかも依存しあっているので、『自性』と呼び得るものは何一つない。今日、こうして存在しているのも、多くのものの力に支えられているお陰である。仏法で『衆生の恩』が説かれる所以である。活きる事は、やがて無量の恩に浴みることである。これを想えば、一生は謝恩の連続であろう。『オホケナクモ』は、『忝ジケナクモ』とか、『勿躰ナクモ』とかいう意味である。ここで存在することは、感謝することになろう。これが分かれば、逆境もまた光明への道に他なるまい。